「 白い恋人 」











  今朝早く、妻が北海道へと旅立っていった。

  ( 何やら、土の中に妖怪が出たらしい。いや、妖怪では無い。水銀だか黄金だかが出たのかな?もし妖怪だったら、ゲゲゲの鬼太郎にでもまかせておけば良いのだ。何も彼女が出向く必要は無い。妻は、水とか土とか水銀とかに関係する仕事をしているらしいのだが、何度聞いても僕にはよく分からなかった。とにかく、仕事の関係で北海道の札幌に旅立ったのだ。いや、札幌では無い。釧路だったかな?とにかく、お土産にうなぎパイを買ってくると言っていた。 
  いや、うなぎパイでは無いな。白い恋人だったかな?まあ、いい。とにかく何か買ってきてくれるのだ。僕は妻のお土産が楽しみで生きているようなものなのだ。いや!そんな事は無い。僕だって、ちゃんと働いているんだぞ?そう、彼女が居ない間に掃除やら洗濯やら食事の仕度やら買い出しやら、時には彼女の生理用品まで調達してだな、とにかく、僕だって忙しいのだ。あれ?何か違うな、そうじゃ無いな。そうそう、僕だってちゃんと仕事をしているのだ。確か、ライターってやつだ。雑誌とかカタログとかの文章を考えて書くのだ。収入だってそんなに妻と変わりは無いのだ。しかし、妻の方は出張が多く普段、仕事の帰りも遅いからどうしても家事は僕がやる事になる。それはそれで良いのだが、妻はその事についてまったく感謝していない。感謝していないどころかよく、お土産を買い忘れてくる。この間もうなぎパイを買ってこなかったし。僕はお土産が楽しみで生きているっていうのに。いや、そうじゃ無いな。僕にだってちゃんと仕事があるのだ。ああー、もう、何がなんだか分からなくなってきた ) ブツブツ。

  そうゆう時には僕はアイロン掛けをする事にしている。

  ( 妻には内緒で妻のCDを聞きながら、妻のブラウスにアイロンを掛けるのだ。妻はいい年をして、僕には隠しているがkinki kidsの大ファンなのだ。僕は知っている。 )
  この間も十周年記念とやらで三十九曲も入っているアルバムを買ってきていた。僕にはkinki  kidsの何処が良いのかさっぱり分からないが、とりあえず「ガラスの少年時代」だけは知っている。  「♪ ステイ ウィズ ミー ♪」  とか言うやつだ。 
  とにかく、それを聞きながら僕はアイロンを掛けるのだ。白い変人の事を考えながら。いや、白い変人じゃないな。白い恋人か。白い変人じゃあ、ちっとも売れないだろう。夜の恋人 うなぎパイ。いや、違った。白い恋人は白い恋人か。ああー、やっぱりまだ頭が混乱している。そうだ、そういう時は猫の伸びのポーズを取るのだ。猫がグィーン、と背筋を伸ばすあれだ。僕が「ニャアーー」と言いながらこれをやると、妻は馬鹿にするのだ。
  「あなた、何やってるの?バカじゃない、いい年して」と。
  だから僕は、丸めた右で前髪を整えながら、言い返す、
  「お前だっていい年して kinki  kidsのファンのくせして」と。
  だけどそれは決して妻には聞こえないように言うのだ。だって、妻には何を言ってもかなわないからね。すると妻は
  「何、ブツブツ言ってるの?気持ち悪いわね」
と言ってくるので、僕はすかさず
  「いや、何でも無いさ」と答える事にしている。 
  それで夫婦は上手くいっているのだ。とにかく、早く白い恋人が食べたいなあ。そうだ! 夜に白い恋人を楽しむ為に、お昼に小田急デパートの全国名産品フェアに行って、六花亭のホワイトチョコレートを買ってこよう。そして三時のおやつに、白い恋人の事を考えながら六花亭のホワイトチョコレートを食べるのだ。そして、少し余ったら妻にも分けてあげよう、妻もきっと喜ぶはずだ ) ブツブツ。                                                                *

  夜になり、妻が出張先の釧路から帰ってきた。

  「ただいまぁ、ああ、疲れた。ねえ、あなた夕食はちゃんと食べたの?」
  「ああ、ちゃんと食べたよ。君は?」
  「うん、まずい機内食を適当にね」
  「ねえ、白い恋人は?」
  「ああ!白い恋人の事、すっかり忘れてたわ。どうしましょう」
  「ええ!?白い恋人、買ってこなかったの?僕は今日の夜、白い恋人を思う存分楽しむ為に、三時のおやつに新宿の小田急デパートの全国名産品フェアまで行って、六花亭のホワイトチョコレートを買ってきて食べたっていうのに?ほら、君の分だってちゃんと残してあるんだ」
  「あなたって本当にどうしようも無いバカね。ほら、本当はちゃんと買ってきてあるわよ。白い恋人。ついでにマリモまで。でもあなたが名産品フェアなんか行ったら、そこで白い恋人だって売ってたでしょう」
  「白い恋人、あったんだ、、、でも、これはそういう問題じゃないんだ。僕は君の買ってきてくれる白い恋人が食べたいんだ。全国名産品フェアの白い恋人なんてインチキなんだよ」
  「じゃあ、六花亭のホワイトチョコレートだって一緒じゃない」
  「六花亭のホワイトチョコレートは三時のおやつだから良いんだよ」
  「もう、あなたの言ってる事って、ちっとも分からないわ。とにかく、白い恋人買ってきたんだから良いでしょ」
  「うん、まあ、、ありがとう。ほら、君も六花亭のホワイトチョコレート食べなよ」
  「要らないわよ!」    バタン!!

  妻はそう、僕に怒鳴ると居間のドアを閉めて化粧室の方へ行ってしまった。僕は白い恋人の包みを開けながら、彼女はいったい何をそんなに怒っているのだろう?と思った。

  ( また生理でも来てるんじゃないかしら?でも、この間チャームナップ・ミニも買っておいてあげたから大丈夫だろう、羽根だってちゃんと立派なやつが付いているのにしておいたし。まあ、とにかく白い恋人は買ってきてくれたから良しとしよう。 ) 
  モグモグ。 
  ( ああ、やっぱり白い恋人は美味しいなぁ。 さて、今度は妻に何を買ってきてもらおうかな? )
  モグモグ。